彼と彼女の今日と明日を

彼は何をするんだろう。
彼女は何をするんだろう。
彼は何を考えるのだろう。
彼女は何を考えるのだろう。
彼はどう感じるだろう。
彼女はどう感じるだろう。

 

彼は明日からどうなっていくのだろう。
彼に幸福は訪れるだろうか。
彼はいつまで生きられるだろう。
彼はその生で何をするだろう。
そこにはどんな意味があるだろう。

 

彼の今に祝福を。
彼の明日に祝福を。
彼の過去が無意味ではなかったと、
彼の過去が無意味ではなかったと、
過去がほほえみを連れてくるようにと、
願わずにはいられないけれど。

 

彼の生命に祝福を。
彼の生命に祝福を。
彼の生命に祝福を。
彼の生命に祝福を。


彼に正義を、
彼の思想に、
彼の行為に。

 

彼に幸福を。
彼女に幸福を。
二人の今に幸福を。
二人の明日に幸福を。

一年後

休みなのは昨日が会計締めだったからだ。それが終わってシフトを作るために山下さんは帰って俺は残って、売り場の平台の蛍光灯が点いていて、フードマットが冷気を逃さないように膨らんでいた。

 

後輪が鳴る自転車に乗って覚王山へ向かった。ドトールの角、寺川の部屋の道を走った。寺川はまだ起きていた。部屋の明かりが点いていた。

 

その道は覚王山に直接は続かない。途中で右折しないといけない。その道は起伏に富んでいる。何も知らない人間が行くと疲労ばかりが手に入る。

 

その道のことを一年前に書いてブログにアップした。それは下書きに戻されることなく今も公開され続けている。雨後の道、夜の闇の怖い部分を覗くように歩いた。心に非日常の刺激を招くためだった。次第に自分の意図した通り恐怖が心の中に染み込み始めた。しかしそれは自分の許容量を超えて、自分の操作の及ばない速さで心を恐ろしく染め上げはじめた。自ら招いた暗闇に自らが溺れ死にそうになった。黒い乗用車が路地からにゅっと顔を出した。池下駅の高層マンションがありえない方角から現れて自分を見下ろした。間際、水面から顔を出すように日泰寺の参道、黄色い擦り硝子の箱型の街頭と月光の道に出、息をした。

そんな内容だった。

 

昨晩はタクシーとすれ違った。懐かしい気持ちで池下の高層マンションを見出した。日付が変わった頃だからまだ歩いている人たちがいた。仕事終わりのサラリーマンが真弓苑の路地から飲んだばかりのように顔を上気させて歩いてきた。


真弓苑、先客が一人、自分のいつもの席の隣に座っていた。その隣に座った。スマホの電池が切れて白いノートを取り出してそこに書き始めた。真弓苑でのことはノートに書いてある。天津麺を食べた。俺の好きだった地元の天津に似た見た目。あんの味わいはそのものでうまい。卵は分厚くて飽きが来る。瓶ビールを飲む。出っ張りの下で雨を除けていた自転車。後輪がチェーン錠を噛んでいる。雨後の坂を下った。気持ちよく解放するように放歌した。ルブラの前でレインコートのおばさんとすれ違った。ツタヤのバス停のベンチでスーツの男が一人、頭を垂れて座っていた。信号を渡ってセブンでマンゴーのアイスと500mlの缶ビールを買って帰った。

 

世界の美しい山々、昨日はアメリカのヨセミテとカナダの山だった。それとか他の番組とかを見ながら飲んで、しばらくしてシャワーを浴びて陰毛を短く刈った。途中で玉袋の皮をはさみで挟んでかなり痛かったけどこっそりと快感もあった。噛まれるのが好きなのだ。犬を飼っていたから。

 

ベッドに横になる。毛布が暑くて床に蹴落とした。掛け布団も暑かった。エアコンは点けなかった。窓を開けたまま、パジャマのズボンも脱いで眠った。

 

起き出してシャワーを浴びた。寺川にラインを送った。それから着替えて自転車に乗って店に向かった。赤いチェックのシャツをインして着てみたのが恥ずかしいようなオシャレで嬉しいような変な感じだった。誰からもなんの評価も与えられず宙に浮かんでいた。自分の意見を定めかねている。店で母さんに頼まれたお中元を買って志村さんと少し話して外に出た。川津さんが少し前に外に出ていたその後ろ姿を見送った。それから池下のコメダにやってきて、四日市のパフュームたちとの飲み会について"いんでんかずみ"のグループにラインを送った。ジャンププラスで桃華という話を読んだが異人種と迫害に関する物語で起承転結のしっかりした、無理のない、それでいて心を動かすストーリーで面白かった。ツイッター大根仁という映画監督を見つけてフォローした。

無題

カーテンをひくと4時半の薄明りが青く部屋にさした。窓を開けて、ベランダと部屋を隔てるひんやりとしたサッシに、素足の土踏まずで立って歯を磨く。右下の奥歯から磨いてしゃこしゃこ鳴るその音も、隣から夜通し延々と響いてくる安らかな鼾同様、近隣にまで聞こえているかもしれない。

 

 

高いマンションに挟まれた3階建てのアパートの屋上を下辺に、自部屋の真上の部屋のベランダの底を上辺に、高い二棟のマンションを縦の辺にして、四角く区切られた四角形だけが、この部屋から見える空だった。

 

そしてそのわずかな空の額縁を縦に二つに分断するようにして電信柱が立ち、支柱から鉄の枝葉が生え、絶縁系のつた植物が左右に伸びていた。それでもその空の絵画は、ここからは見えない空全体の広大な瞬間を、実に巧みに描写して僕の眼に届けてくれるのだった。

 

 

 

背後のベッドから小さな音量でサカナクションの音楽。外の世界から広小路通のロードノイズ、早起きな鳥の一羽分の鳴き声。口の中から歯を磨く音。隣の部屋からおっさんの鼾。

そこに突如として起きたつんざくような金属音に思わず身をすくめた。

鉄パイプをばら撒いたような音だった。

 

 

サッシから降りて窓を閉め、カーテンはあけたままで洗面所に行って口をゆすぐ。水道水を手ですくって口に運ぶ途中、長袖の袖口から数滴ぽろぽろと水滴がつたい、腕と寝間着を濡らしてしまった。

青い水のような薄明りは日光らしい無色にうつろった。新しい寝間着に着替えて洟をかんだ。

雨後の街を歩く

テレビをつけるとN響クラシックがやっている。指揮者は白髪ではげている。賑やかな式典調の間の指揮の動きがとてもコミカルで、それを何秒も映し続けるのだからまともに見ていられない。木製弦楽器、金属製管楽器、ティンパニ、それぞれの見せ場の指先の動き、息使い、表情、若い女性バイオリニスト、そういう映像は見ていられる。気持ち良さそうな初老の指揮者の映像はちょっと見ていられない。

 

今日は休みだった。昼過ぎまで職場にいて、それからココイチに行ってカレーを食べた。チキン煮込みカレー。飲食店は飲み放題で冷たい水と上手に炊けたお米があればひとまず上出来だと思う。それから帰宅して、本を読みながら寝落ちした。近頃寝不足だった。

 

18時半に目覚めると、気のせいにも思えるようなかすかな雨音。カーテンを開けると外はまだ明るい。明るさに目がぎゅーっと開く。空は青色と灰色の中間の色合いでいる。雨足は意外にも強めで、雨粒が道にばつばつ跳ねていた。

 

雨がやんだので散歩に出た。

 

ラーメン屋に入り、塩ラーメンを注文した。テレビではサスケがやっていた。隣の席のカップルも見ていた。セカンドステージが簡単になっていて、みんなクリアしてしまっていた。泳ぐコースが出来たらしく、それを知らずに見ていたから、挑戦者が泳ぎ始めたとき失格じゃんと思った。カップルの女が時々なにかを言っては盛り上げていた。ラーメンはチャーシューが3枚のっていて、2枚と1枚で味が異なった。水は冷たくて飲み放題だった。

 

 店を出て、暗い住宅街の方に歩いていった。明るく立ち並ぶ飲み屋を過ぎて、駅北側のバスロータリーを過ぎて、国土交通局愛知国道事務所を過ぎる。途切れ途切れに点在する飲み屋も過ぎてしまって、暗くて静かな雨後の住宅街が始まった。振り返ると池下駅の超高層マンションがそびえてこちらを見下ろしている。豪華絢爛なフロア、住居やエレベーターに灯った無数のランプ、その光の波がこちらの暗闇に遠く及んでいた。


歩いて行くと公園が現れた。鬱蒼と生えた木々の隙間の闇の中に、吊るされたタイヤの遊具やブランコが見える。その光景はどうしても恐ろしいものだった。火遊びの火が風に煽られて服に引火するような感じで、ちょっとした不注意をすると恐怖が全身を満たしかねない、そんなあやうい状況に心がおかれた。同時に、恐怖もおもちゃにしてもてあそんでしまいたいような気にもなった。恐怖は心を支配する強い感情だ。退屈を持て余していた自分は感動が欲しかった。とにかく退屈だった。暗い街には異界に通ずる入り口がそこら中にある。崖下の公園の吊るされた遊具、暗い家の二階の窓の奥、居住者のいないマンションの一室、そして自分の背後。そういった本来ならば忌避すべきものになにやら魅了されて無防備に覗き込んだ。

そのうちに恐怖がやってきた。自分は実際に恐怖が染み込み始めると足早にそこから離れ始めた。細い路地裏で感知式の防犯灯に照らされた。「猛犬に」と掲げられた塀の前を怯えながら歩いた。コインパーキングから怪しい一台の黒い車が出てこちらに向かってきた。針葉樹の葉先に滴いた雨粒は注射器の針とその内容液に見えた。一本の木に沢山の針が繁って塀の上から飛び出してきていた。駅前の超高層マンションがありえない、おかしな所から突然顔を出し、こちらを覗いてきた。。。

 

 

ウォーキング、ランニングの人たちが目の前を通り過ぎていく。日泰寺門前町、広い参拝道に出た。そこでは優しい明かりが夜の暮らしを宿して窓に灯っていた。

 

 

寺に向かった。近頃寺によく行くのは、入信したわけではなく、ただ非日常な空気を吸いに行くのだ。ただ今日はもう閉まっていて入れなかった。だから門前でUターンした。途中にお地蔵さんがいる。お地蔵さんは硬い石でできているが、表情を変化させてこちらに語りかけてきそうに思えた。神聖であった。

神様のことを考えることは、自分のことを考えることだろう。神様は自分の全てを知っている、俺以外の人間たちの全てのことをお見通しにしている。本当にそうだとすると、どうしても自分の生き方が再考される。過ちについて思い出される。正しさについての自信を取り戻す。

 

女が向こうからジョギングでやってくる。幼さからいって学生だろう。この辺は女子学校がいくつか集まっている。健康に躍動する祝福された妙齢の花。見ると俺はみじめにやせ細っていて、女が駆ける風圧にさえ抗えず車道に押し出されてそのまま自動車に轢かれて死んでしまってもなんの不自然もなく思えた。可憐な女がこれまで踏み潰してきた何百の蟻のなかの一匹に過ぎないように思えた。いざすれ違うと非情な突風が吹いたが、歩道の街路樹につかまってようやくこらえた。その後も数分の間その裸子植物の木陰に乱れた息を落ち着ける必要があった。

 

そして歩道を自分の部屋に向かって歩いて戻った。そしてテレビをつけて、何か知らない交響曲を聴きながらこの記述を始めた。

 

覚王山

覚王山ひらき。入ってすぐ雑誌置き場にささった週刊プレイボーイのどぎつい表紙。グラビアアイドルが1ダースくらい、重なり合ってるやつ。オイルでつやつやした肌に、赤いスパンコールの水着。バックは真っ暗。日替わり定食A。まず蒸し鶏サラダだけでてきた。ナポリタン待ち。食後のコーヒーをアイスにしたから+50円で800円。右隣の夫婦が出てきたナポリタンを見て懐かしがっていた。昔ながらだから。お米と沢庵を少し残した。アイスコーヒーのシロップとミルクを入れる前に持って行かれる不覚。
 (覚王山ローソン。アジカンのチケットでごねた店。冷たいものが飲みたくなって入った。ドリンクが美味しそうに並んでた。野菜と果実のスムージー、チアシード入り買った。野菜ジュースにチアシード入れた飲み物。店の前で欧米人の男が英語を話していた。暑い。)
ローソンで買った飲み物のゴミを捨ててもらった。ザラメに行くまでに腹ごなしに散策する。覚王山日泰寺へ。山号の覚王は釈迦を表し、寺号の日泰は日本とタイの友好を願ってつけられた。門を入ってすぐのところで日よけのテントを設営していた。明日21日は参道の縁日だ。寺の敷地内にも出店のテントがいくつかあった。恐る恐る自転車で侵入。賽銭箱の前に1人、すぐ脇に2人。寺のなかからお経の合唱が。奥の仏壇?の前で十数人のお坊さんたちが列になってその場をぐるぐると回りながらお経を唱えていた。同じメロディだけど一人一人の声質や高さが異なるためにハモって聞こえる。ところどころで古い文語で聞き覚えのある言葉を耳が拾った。「欲望」という言葉も聞いた。寺の敷地からはグランドメゾン池下ザ・タワーがみえる。覚王山駅前の高いマンションがみえる。南山の方に赤と白の鉄塔がみえる。敷地内には釈迦の仏舎利を納めた奉安塔。境内の床板の下で女の子が2人遊んでいる。黄色い花輪をかけられたゾウの石像が二体。酸性雨を浴びまくったイギリス人の銅像が一体。鳥山明のデザインする鳥系のモンスターの赤いトサカみたいな花が咲いた低木が二本。清潔なトイレ。揚輝荘の輝く葉がのぞく。木陰の地蔵、静かに水滴の続く手水舎(ちょうずや)。門へ走る女の子、石に寄りかかって1人遊ぶ女の子。名古屋市千種区山門町。自転車にまたがり元来た道へ。門から同年代の女が三人。
揚輝荘の方へ向かう。男の子が赤いスポーツバイクで坂を登ってくる。息が弾んでいる。揚輝荘、松坂屋の初代が建てた別荘。今は名古屋市に寄贈されている。月曜休館。「開店休業」。ユニコーンの曲をフジファブリックがカバーしたやつを昔持っていた。地味な題名だったし聞いてなかった。今となっては聞き込んでいればよかったと思う。その曲が描いた分だけ人生が明らかにされていた。「何を見ても何かを思い出す」これはヘミングウェイ短編集。何を聞いても、見ても、自分の人生に関連付けて考えることができる。人生で過ぎた時間が重なるほどに、テキストが読み取らせる意味も増えていく。
 揚輝荘から道沿いに水道塔のほうへ。大小の地蔵、古びた木製の看板。「覚王山何カ所巡りの何番地」。いい感じに古びれたアパートが数軒。すれ違う三台の自動車。覚王山ハイツと覚王山ハイツ2。鯖大師と書いたよだれかけをつけた地蔵。引き返して、さっきの少年が登っていた坂を自分も登って、ザラメへ。

 エクセレントカフェオレとかなんとかいうカフェオレの1番高いやつ。甘いやつ。まだ食べてないけどロータスのビスケット、多分甘いやつ。お客さんはみんなパンとかドーナツとかをショーウィンドウから選んでテイクアウトしていく。俺の部屋はきたないから持って帰って食べるのはいや。店内で食べているのは今は俺ともう1人奥さんだけ。


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