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わたしは漁夫 ボラとりにゆく

わたしは漁夫 ボラとりにゆく
新井 豊美

魚市場で
とれたばかりのボラの頭が切り落とされ
切り口からどっと赤いものが
あふれ出すのを見た
頭のないボラの銀色にくねる胴を
男はわし掴みにして立ち去り
男の動作はすばやく
血潮の中に頭と内臓がしんと残った
それは実に新鮮な光景だった
新しい血は
河口の水に似て汐の匂いがするから
わたしはその匂いがすき
河口にいるボラを狙って男は釣り針をおろし
わたしは泳ぐ幻を追って河口へゆく
夢    とはいえ色彩と音と質量があり
夢    とはいえ鞭となって痛くしなる
ボラの血で指を染め
夢    という激しい暴力をあの男にならって
刃物でザクリと切り落としたい
銀色に光る頭と胴を二つに
以来わたしは漁夫
ボラとりにゆく