無題

カーテンをひくと4時半の薄明りが青く部屋にさした。窓を開けて、ベランダと部屋を隔てるひんやりとしたサッシに、素足の土踏まずで立って歯を磨く。右下の奥歯から磨いてしゃこしゃこ鳴るその音も、隣から夜通し延々と響いてくる安らかな鼾同様、近隣にまで聞こえているかもしれない。

 

 

高いマンションに挟まれた3階建てのアパートの屋上を下辺に、自部屋の真上の部屋のベランダの底を上辺に、高い二棟のマンションを縦の辺にして、四角く区切られた四角形だけが、この部屋から見える空だった。

 

そしてそのわずかな空の額縁を縦に二つに分断するようにして電信柱が立ち、支柱から鉄の枝葉が生え、絶縁系のつた植物が左右に伸びていた。それでもその空の絵画は、ここからは見えない空全体の広大な瞬間を、実に巧みに描写して僕の眼に届けてくれるのだった。

 

 

 

背後のベッドから小さな音量でサカナクションの音楽。外の世界から広小路通のロードノイズ、早起きな鳥の一羽分の鳴き声。口の中から歯を磨く音。隣の部屋からおっさんの鼾。

そこに突如として起きたつんざくような金属音に思わず身をすくめた。

鉄パイプをばら撒いたような音だった。

 

 

サッシから降りて窓を閉め、カーテンはあけたままで洗面所に行って口をゆすぐ。水道水を手ですくって口に運ぶ途中、長袖の袖口から数滴ぽろぽろと水滴がつたい、腕と寝間着を濡らしてしまった。

青い水のような薄明りは日光らしい無色にうつろった。新しい寝間着に着替えて洟をかんだ。